ソーラーカーの技術

2017年10月、Bridgestone World Solar Challengeに東海大学ソーラーカーチームが4m2シリコン太陽電池を搭載した新型車両で参戦!!

オーストラリアで開催されるBridgestone World Solar Challenge
2017年10月8日〜15日、オーストラリア大陸北部のダーウィン(ノーザンテリトリー準州都)から南部のアデレード(南オーストラリア州都)までの3,000kmを、ソーラーカーで縦断する、「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(Bridgestone World Solar Challenge」が開催されます。(以後、BWSCと略記)このBWSCは、1987年に第1回大会が開催され、2017年で14回目を迎えます。30周年記念となる本大会に29の国と地域から45チームがエントリーしました。東海大学はこれまでに、1993年、1996年、2001年、2009年、2011年、2013年、2015年の7大会に出場し、2009年にはTokai Challengerで日本勢として13年ぶりの総合優勝、2011年には二連覇を成し遂げました。2013年は、大会レギュレーションが大きく変更される中で4輪の2013年型ソーラーカーTokai Chalengerを開発し2位、2015年は3位と常に表彰台に乗っています。主なライバルチームとしては、オランダのNuon Solar Team(デルフト工科大学)、Solar Team Twente(トゥエンテ大学)、アメリカのミシガン大学チーム、スタンフォード大学などが挙げられます。詳しい情報はWikipediaのワールド・ソーラー・チャレンジなどを参照してさい。


Bridgestone World Solar Challengeのロゴマーク


World Solar Challenge 3,000kmのコース
(日本の北海道から沖縄までよりも長いコース)

2017年のレギュレーション改定
1987年の初開催から30周年を迎えるにあたり、2005年までは8m2程度の面積まで認められていた太陽電池が、ソーラーカーの進化により6m2への削減されました。2017年はさらに4m2まで削減され、当初の半分以下の面積になりました。一方、2015年までの車体寸法が全長×全幅が4.5m×1.8m以内であったものが、2017年は太陽電池面積が大幅に削減されたにもかかわらず5m×2.2mに拡大され、事実上、設計の自由度が増加しました。このレギュレーションの変更により、ソーラーカーのデザインは再び分化をはじめることになりました。

2009年〜2017年にかけてのレギュレーション変化

太陽電池種類 太陽電池面積 全長制限 コックピット&視界 主な変更ポイント
2009 化合物 6m2 5m 座った乗車姿勢、前方視界については肉眼で目視できること  
シリコン

 
2011 化合物 3m2 化合物太陽電池が不利に
シリコン 6m2 シリコン系太陽電池が有利に
2013 化合物 3m2 4.5m 広いコックピット、ドライバーの前方で4m離れた上下0.7mの範囲が見える 全長が0.5m短くなり、大きなコックピットが必要となる
シリコン 6m2
2015 化合物 3m2 4.5m 広いコックピット、ドライバーの前方で4m離れた上0.7m、下0.4mの範囲が見える  
シリコン 6m2

 

 

2017 化合物 2.64m2 5m 太陽電池面積が削減される中、全長が0.5m長くなったので、事実上自由な形に
シリコン 4m2 5m 多接合化合物太陽電池は、シリコン系の2/3の面積となる

全長が4.5mから5mに回復し、太陽電池面積が縮小されることから、ボディ形状は2015年の主流であったカタマラン(双胴)型(左)とモノハル(単胴)型(右)を採用する主に2つのグループに分かれました。東海大学ソーラーカーチームでは、この2つのモデルについて開発&空力解析を進めてきましたが、モノハル型の方が空気抵抗を小さくできると判断し、こちらを採用することにしました。さらに、多接合化合物太陽電池については、2011〜2015年まではシリコンの半分の面積でしたが、2017年は従来に比べ32%増とすることができ、依然よりも有利になりました。以前のレギュレーション改定では、高コストな多接合化合物太陽電池を使わなくても、十分な走行性能を実現することができるとして、事実上宇宙用の太陽電池を締め出した経緯があるだけに、このようなレギュレーションは不可解であるといわざるを得ません。

 
Type A Catamaran型                       Type B Mono-hull型

 

これらのボディはソフトウェアクレイドル社の熱流体解析ソフトであるSCRYU/Tetraによって評価が行われ、形状変更と空力評価が繰り返し行われることで空力性能の改善が行われました。その結果、デザインされたのがType-Bを元に開発された2017 Tokai Challengerです。2013年型と2015年型では双胴型の左側に寄せた位置にコックピットがありましが、2017年型ではトレッド幅と車幅を縮めたために、走行安定化のためコックピットを中央に配置することとしました。

2017年型Tokai Challengerの特徴
パナソニックから供給されている太陽電池モジュールHITは、通常の製品ラインの中から選別された太陽電池が使用されたものを集め、反射防止構造の性能向上や高反射充填剤などの改良が施され、2011年に22.0%だった変換効率は2013年に22.5%、2015年に23.2%にまで向上しました。その結果、定格出力は1.32kWから1.39kWへと増加させることに成功しました。2017 Tokai Challengerは、開発段階となる裏面電極型の太陽電池HITを搭載することで、なんと変換効率を24.1%にまでアップさせることができました。これにより、4m2の太陽電池でありながら962Wの定格出力を発生させることができます。

東海大学ソーラーカーチームは、パナソニックブランドの太陽電池を搭載する唯一の日本製太陽電池を搭載した参加チームとなる見込みです。リチウムイオン電池は、2015年に引き続きニッケル系正極を用いた高容量18650型リチウムイオン電池を搭載し、17並列24直列のバッテリが組み上げられました。搭載が認められる20kgの重量制限の中で、2017年には5.1kWhのバッテリを搭載します。

 

さらに、東レの炭素繊維「トレカ」の供給を受け、東レ・カーボンマジック社で製品成形していただくことで超軽量な車体を実現しました。今回は一般的なT300よりも1.67倍の引っ張り強度を誇る、T800を使用したトレカクロスを用意し、さらに開繊処理を加えてプリプレグとしたものを中心に用いました。

  

ミツバ社のソーラーカー用ブラシレスDCダイレクトドライブモータに鉄製アモルファスコア、ケイ素鋼板バックヨーク、ジェイテクト製のセラミックボールベアリングなどが組み合わせれ、98%という超高効率なモータが新規開発されました。

 

BMW i3にも応用されたタイヤテクノロジーであるブリヂストン「ECOPIA with ologic」は大径狭幅化することで走行抵抗を低減することができます。ソーラーカー用に開発されたラジアルタイヤは、なんとプリウスの1/10程度の転がり抵抗を実現することができるとのこと。KYBモーターサイクルサスペンションのスプリング+ショックアブソーバは、Tokai Challengerのために専用設計・製作されたもので、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングが施されたもの。

 

産総研、小山高専、東海大学が開発し、三島木電子が製作した新型の昇降圧型MPPT(写真左)は98.5%の効率を達成。さらに、新規開発を行ったPVバランサー(写真右)を組み合わせることで、キャノピー影やモジュール内角度差によって発生する損失を最小に抑えることができます。

これ以外にも、チームTEEDDAや東海大学情報理工学部などの協力で気象衛星ひまわり8号によるオーストラリアの高精細衛星画像および日射量推定マップを利用した運航計画を行います。日本デジコム社の協力で車載型インマルサッと通信衛星端末Explolar 325を利用することで、10分間隔で最新の高精細カラー衛星画像を現地で入手することが可能になりました。2017年は、推定日射量の未来予測を取り入れる予定です。

 


2017年型ソーラーカーTokai Challenger

2017 Tokai Challengerの諸元表

Length 4980mm (+485mm)
Width 1200mm (-595mm)
Height 1000mm (-8mm)
Track 610mm (-590mm)
Wheel Base 1700mm (-200mm)
Weight 140kg (-30kg) EST.
Solar Array Panasonic, HIT back contact solar cells, 3.996m², Efficiency 24.1%, Output Power 962W
MPPT Mishimaki, Buck and Boost Type, 12 Channels, Efficiency 98.5%
Battery Panasonic, High Capacity Li-ion Battery, 411 Cells of 18650 type, 20kg, 5.1kWh
Motor Mitsuba M2090D-SP2017, Brushless DC, Direct Drive, Iron Based Amorphous Core, 98% with Controller
Controller Mitsuba, 3 Phase PWM &Advance Angle Control
Tire Bridgestone, ECOPIA with ologic 95/80R16 x 4
Wheel Toray Carbon Magic, 16 inch Carbon Disk x 4
Brake Front: Beringer Hydraulic Disc x2 set & Sunstar Engineering Disk Rear: AP Hydraulic Disc & Mitsuba Titanium Disc & Regeneration Brake
Average Speed

90km/h (solar power only)

Maximum Speed 150km/h (both solar and battery power use)

遠征メンバー*1
チームマネージャー 武藤創(工学部動力機械工学科2年)
ドライバー 喜多洸介(工学部動力機械工学科3年)、シッド・ビッカナーバー(NASA JPL)、菊田剛広(日本ケミコン、本学OB)、佐川耕平(工学部電気電子工学科助教)
セーフティーオフィサー 山崎翔太(工学部電気電子工学科2年)
バッテリーオフィサー 清水祐輝(情報理工学部コンピューター応用工学科3年)
スタッフ 学生14名
特別アドバイザー

池上敦哉(KYBモーターサイクルサスペンション、ZDP)、竹内豪(ミツバ、本学OB)、菊田剛広(日本ケミコン、本学OB)、シッド・ビッカナーバー(NASA JPL)、徳田光太(ヤマハ発動機、本学OB)、平澤浩人(タートル工業、本学OB)、岩田大裕(パナソニック)、飯田茂(飯田製作所)、平田将大(本学OB)

プロジェクトコーディネーター 佐藤多嘉雄(チャレンジセンター課長補佐)
チーム監督 福田紘大(工学部航空宇宙学科航空宇宙学専攻准教授)
チーム総監督 木村英樹(工学部電気電子工学科教授)

出場予定チーム
29の国と地域から45チームが出場します。*2

Car No. Team Car Name Country Class
2 University of Michigan Solar Car Team Novum United States Challenger
3 Nuon Solar Team Nuna9 Netherlands Challenger
4 ANTAKARI INTIKALLPA IV Chile Challenger
7 Adelaide University Solar Racing Team Lumen II Australia Challenger
8 Punch Powertrain Solar Team Punch Two Belgium Challenger
10 Tokai University Tokai Challenger Japan Challenger
12 Cambridge University Eco Racing Not provided United Kingdom Challenger
15 Western Sydney Solar Car Project - Australia Challenger
16 Stanford Solar Car Project Sundae United States Challenger
18 UiTM Eco Photon TUAH Malaysia Challenger
20 Durham University Electric Motorsport DUSC United Kingdom Challenger
21 Solar Team Twente RED Shift Netherlands Challenger
22 MDH Solar Team MDH Solar Car Sweden Challenger
25 NITech Solar Racing Horizon 17 Japan Challenger
28 Neul-Hae-Rang Woong-bi South Korea Challenger
29 STC-2 Edison Edison Thailand Challenger
32 Principia Solar Car Ra X United States Challenger
34 RVCE Solar Car Team ARKA India Challenger
37 GOKO HIGH SCHOOL MUSOUSHIN Japan Challenger
38 NWU Solar Naledi South Africa Challenger
43 MTAA Super Sol Invictus The Super Charge Australia Challenger
46 JUsolarteam Solveig Sweden Challenger
70 Team Sonnenwagen Aachen HUAWEI Sonnenwagen Germany Challenger
71 ITU Solar Car Team B.O.W. ISTANBUL Turkey Challenger
72 Proton Noor Sudan Challenger
77 Blue Sky Solar Racing Back in Azure Canada Challenger
82 KUST (Kookmin University Solar car Team) Taegeuk South Korea Challenger
88 Kogakuin University Solar Team Wing Japan Challenger
5 SunSPEC SunSPEC5 Singapore Cruiser
9 PrISUm Penumbra United States Cruiser
11 HS Bochum SolarCar-Team Thyssenkrupp Blue.Cruiser Germany Cruiser
14 Flinders Automotive Solar Team Investigator Mk III Australia Cruiser
23 University of Tehran Solar Car Team Persian Gazelle IV Iran Cruiser
30 Clenergy Team Arrow Arrow STF Australia Cruiser
33 Solar Electric vehicle Cairo Universiy Team(SEV-CUT) Horus Egypt Cruiser
35 IVE Solar Car Team SOPHIE VI China Cruiser
40 Solar Team Eindhoven Stella Vie Netherlands Cruiser
42 TAFE SA SAV Australia Cruiser
45 Lodz Solar Team Eagle Two Poland Cruiser
49 STC-2 Nikola Nikola Thailand Cruiser
75 UNSW Solar Racing Team Sunswift Violet Australia Cruiser
94 University of Minnesota Solar Vehicle Project Eos II United States Cruiser
95 Apollo Solar Car Team Apollo VIII Taiwan Cruiser
52 Illini Solar Car Argo United States Adventure
53 Mississippi Choctaw High School Solar Car Team Tushka Hashi III United States Adventure

チャレンジャークラス28台、クルーザークラス15台、アドベンチャークラス2台。

*1 2017年8月20日時点での所属、学年より
*2 2017年8月20日時点での大会の発表資料より

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パナソニック株式会社
東レ株式会社

東レ・カーボンマジック

株式会社ブリヂストン
日野自動車株式会社
株式会社ミツバ
日本マイクロソフト株式会社
株式会社ソフトウェアクレイドル
KYBモーターサイクルサスペンション株式会社

飯田通商株式会社
石塚工業株式会社
植木プラスチック株式会社
九重電気株式会社
株式会社ジェイテクト
株式会社三協
国立研究開発法人産業技術総合研究所
サンスター技研株式会社
株式会社スマートビジョン
株式会社ソーアップ
ダッソー・システムズ株式会社
チームTEEDDA
日本ケミコン株式会社
株式会社日本デジコム
人気酒造株式会社
株式会社パトライト
ビジュアルテクノロジー株式会社
有限会社フジアロイ
株式会社プロジェクト・ミュー
ベクター・ジャパン株式会社
有限会社三島木電子
ラップジャパン株式会社
WAKO'S 株式会社和光ケミカル